東京地方裁判所 昭和42年(借チ)1032号 決定 1968年2月23日
申立人 佐藤義人
右代理人弁護士 村下武司
石川幸吉
相手方 小沢文子
右代理人弁護士 中条政好
主文
申立人において相手方に対し、金六〇万円を支払うことを条件として、本件改築を許可する。
理由
一 申立の趣旨
申立人は、昭和一一年一〇月二六日北区赤羽西一丁目五六四番の三宅地一、七七四・二一平方米(五三六・七坪)のうち三一一・六平方米(九四・二六坪)(本件借地という)を、相手方の先代小沢英三から、普通建物所有の目的で、期間を二〇年と定めて賃借し、その地上に昭和一二年三月木造瓦葺二階建の医院兼居宅床面積一階五六・〇八坪(一八五・一二平方米)、二階三〇坪(九九・一七平方米)(本件建物という)を建築し、以来これに居住し、歯科医院を開業している。相手方は昭和一二年六月右小沢英三から相続により本件土地の所有権を取得し、申立人に対する賃貸人の地位を承継した。本件建物は、昭和三〇年頃申立人において一部を改築し、その後も外壁の補修等を行なったが、昭和四二年頃から天井の漆喰が脱落するにいたったし、本件建物が防火構造でないので、この際これを全部取り毀した上で、木造モルタル、カラー鉄板瓦欅葺医院兼居宅床面積一階八七・六平方米(二六・五坪)、二階六二・八平方米(一九坪)の建物を新築する計画(本件改築という)をたて、相手方の承諾を求めたところ拒絶されたので、相手方の承諾に代わる許可を求める。
二 本件資料によれば、前記事実のほか、次の事実を認めることができる。
(1) 本件改築計画の内容は、土地の通常の利用上相当というべく、また法令に違反する点も認められない。
(2) 本件建物はかなり損傷していることが認められ、このまま放置すれば、その主屋にあたる居宅部分は借地契約の存続期間満了の時(昭和五一年一〇月二五日)をまたずして廃する可能性があるといえる。しかし、診療所の部分は内壁の損傷は著しいが、廃を問題とする状態とはいえない。しかもこのような建物の損傷の原因は、木造建物としてはかなり強固な布コンクリートの基礎工事が施されているにもかかわらず、この基礎が陥没していることからみて、地盤の一部が著しく軟弱であることによるものと認められる。
(3) 本件借地契約にあたっては、権利金、敷金等の授受はなされていないが、昭和三一年の更新の際、申立人は謝礼として金一〇万円を相手方に支払っている。
三 前示のとおり、本件建物の一部は廃に近いといえるが、その主要な原因が地盤の軟弱にあることをも合せ考えれば、このことをもって本件改築の許可を不相当とする事由とすることは相当ではないというべく、またその他許可を妨げる事由を認めることができないから、本件申立てを認容することとする。
四 そこで、附随の処分について検討する。
1 鑑定委員会は、本件借地のうちの半分四七・一三坪は商業地区に入り、残り半分は住宅地区に入るものとし、商業地区については更地価格を坪四〇万円、借地権価格を坪二九万二、〇〇〇円(更地価格の七三%)、住宅地区については更地価格を坪二〇万円、借地権価格を一三万八、〇〇〇円(更地価格の六九%)と認めた上で、本件改築にあたり借地契約の存続期間を二〇年間延長する(昭和七一年一〇月二五日まで)ことを条件として、商業地区については借地権価格の一〇%、住宅地区については、八%の金額、合計金一八九万六、〇〇〇円(端数切捨て)を申立人に支払わせることが相当であるとしている。
2、当裁判所は、本件許可を得て申立人が改築計画を実施すれば、相手方は借地法第七条による異議を述べることはできないのであるから、同条の定めにより借地契約は新築のときから二〇年間延長されることになるものと解する。従って、本裁判において特に存続期間の延長をする必要はないものと考える。ところで、同条による異議があった場合の効果を本借地契約についてみれば、仮りに本件建物の一部が期間満了前に廃すべかりしものであるとしても、前示事実からみてその時に借地契約が当然に終了すると解するのは相当でなく、結局期間満了の際に更新を拒絶するに足る正当事由の有無の判断において斟酌されるにすぎないと解せられる。従って、本件許可によって相手方の受ける不利益は、更新を拒絶することのできる機会をほぼ一二年間遅らせられるということに帰するものといわなければならない。
本件改築の許可によって受けるこのような相手方の不利益をどれだけに評価して、申立人に給付を命ずるのが公平な措置といえるかについては、既定の基準があるとはいえないので、当裁判所は本件資料に現われた諸般の事情を考慮し、これを土地の価格の約二%(土地の価格については、前示鑑定委員会の意見に従がう)にあたる金六〇万円をもって相当と認める。
よって、主文のとおりに決定をする。
(裁判官 西村宏一)